皆様、こんばんは。fukunomo実行委員会の松岡です。今回、わたしの独断と偏見で選ばせて頂きましたお酒は鈴木酒造店長井蔵様から『磐城壽 純米吟醸華吹雪』です。
fukunomoは福島県内で飲み干されてしまう美味しいお酒を日本全国の皆様にもお分けしようというコンセプトから始まりました。そして『磐城壽』はまさにそういう、福島県内どころか海側エリアで消費されてしまう〝海の男の祝い酒〞でした。震災後の復興物語が有名になり、全国的に名前を知られるようになったものの、それ以前は知る人ぞ知るマニアックなお酒だったのです。
ちなみに味もなかなかマニアックなお酒でした。日本酒らしい熱い辛さと圧倒的に複雑なお米の味を併せ持つ、まさに日本酒界の暴君。その見事なバランスは高い醸造技術と精緻なコントロールの賜物でした。震災でなくなってしまったものの、蔵の設備は小規模な地酒の蔵としては最先端のものが取り入れられていたのです。
現在もまだ設備の完全復旧には至っていませんが、小仕込みで緻密に管理されたお酒は往時の優れた品質を保っています。
蔵が移転し、水がより軟水になったために『磐城壽』の味はちょっぴり変わりました。複雑な味の豊かさはそのままに、穏やかで繊細な含み感のあるまろやかなお酒になりました。正直に申しまして、前の『磐城壽』の味であれば万人にはお勧めしがたかったと思います。美味しいですがあまりにインパクトが強く、好き嫌いの分かれてしまう味でした。しかし今では日本酒界の暴君は懐の深い名君になり、飲む人に日本酒本来のおいしさを優しく伝えてくれます。
一口飲んだ瞬間に大感激! というような分かりやすい美味しさではないものの、飲めば飲むほどその味の豊かさ、そして雑味のなさに驚かれるはずです。吟醸だからすっきりしているだろうと思うのは早とちり。冷酒からちょっと熱めの燗まで、日本酒のいろんな表情を見せてくれます。ここまでお米のおいしい味を満遍なく引き出そうとすると、同時にお米の嫌な味というのも出てしまうものなんですが、それが一切ない。ゾッとするほどの醸造技術の高さを伺い知れます。再生への道半ばにしてこれですから、今後設備が整ってしまうとどれほど美味しくなってしまうのか? 先が楽しみやら恐ろしいやらです。
吟醸にありがちなフルーティーな香りが控えめで、一緒に食べる物の味を引き出してくれるホカホカご飯のようなお酒です。ぜひ、いろんな温度・いろんな食べ物と組み合わせて多彩な変化をお楽しみください。
では、楽しい日本酒ライフを!