仁井田本家(福島県郡山市田村町)- 100年後の未来に誓った自然派へのこだわり - fukunomo(フクノモ) ~福島からあなたへ 美酒と美肴のマリアージュ~

仁井田本家(福島県郡山市田村町)- 100年後の未来に誓った自然派へのこだわり

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全量自然米使用の「自然酒」のさきがけとして、また県内有数の老舗蔵元として躍進を続ける仁井田本家。
その視線の先には、酒造りだけにとどまらない酒蔵の未来がありました。

100年後の未来に誓った自然派へのこだわり

郡山市の市街地から車を走らせること20分ほど。のどかな田園風景が広がる田村町地区に仁井田本家はあります。蔵を訪れた人を最初に迎えるのは、代表銘柄「自然酒」の大きな樽のモニュメント。そのどっしりとした佇まいからは、酒造りに対する姿勢と、創業から300余年にわたって培われた歴史の重みを感じることができます。現在の当主は18代目の仁井田穏彦さん。平成22年からは杜氏も兼任し、名実ともに蔵を背負って立つ存在となりました。

飲む人にも飲まない人にも、環境にもすべてに優しい酒蔵であるために

「僕の師匠でもある南部杜氏の方が引退するのを機に、自分たちで酒造りを始めました。職人まかせで、蔵に技術が何も残らないのはもったいないし、何より酒屋なのに酒造りができないのはつまらないですから」
そんな穏彦さんが杜氏蔵元として新たな一歩を踏み出す際に決意したのが、農薬や化学肥料を一切使わない自然米100%、天然水100%、純米100%にこだわり抜いた酒造り。市場に出ている商品が切り替わったタイミングで、大々的に自然派宣言をしようと思っていた矢先、東日本大震災の原発事故が起こります。折しも2011年は創業300年の節目の年でもありました。
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「神様は意地悪だと思いました。ようやく自分が杜氏になって無農薬の純米酒が作れるようになった途端のあの事故でしたから。でもある時、300年の間にも今回のような大きな事件はきっと何度もあったはずだと思うようになって。そのたびに、代々の人間が何かしら残せるものを次の世代にバトンタッチしてきたんですよね。それなら自分は次の代に無農薬の元気な田んぼを1枚でも多く残したい。100年後に、『18代目ががんばったおかげで、無農薬の田んぼも増えたし、元気に楽しく酒造りができてるよね』って思ってもらえればいいかなって(笑)」

老若男女が集う“開かれた蔵”への想い

酒蔵としての方向性を揺るがしかねない大きな出来事に際し、一層、自然米での酒造りに意識的になれたという穏彦さん。未曾有の事態は、新たな酒蔵の可能性にも気づかせてくれました。
「うちの原料を作ってくれている有機農家さんは、特に風評被害が深刻で。その方たちのためにも何か打開策をと考えたときに、実際にお客さんに蔵に足を運んで見てもらうのが一番だろうと。それで何かイベントをしようと思いついたんです」
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まずは蔵の田んぼや畑で穫れたコシヒカリや餅米、小麦や小豆を使ってスイーツや発酵食品の販売を企画。繋がりのある有機農家や生産者にも声をかけ、蔵の敷地内で市場を開きました。そこには女将の真樹さんのこんな意見もあったそう。
「酒蔵というと敷居が高くて、人が集うイメージがないですよね。お酒は男性の楽しみのイメージだし、どうしてもお子さんや女性は来てくれない。それなら、スイーツとかみんなが食べられるものを最初に用意して、お酒が好きなお父さんももちろん楽しめる、そんなイベントにしたいなと思ったんです」
そうして始まったのが月1回の「スイーツデー」と春の「蔵・感謝祭」、秋の「蔵・収穫祭」。中でも感謝祭と収穫祭は県内外から3,000人が訪れる人気イベントとなっています。
「今のままじゃダメという意識は常にありますね。手前味噌ですが、うちのやっていることは地に足の付いた、これから本当に必要なこと。たくさんの人に知ってもらうためにも積極的にPRしていかなければと思っています」
いずれは、裏山の木を切ってバイオマス発電をしたり、ヤギを飼育してチーズを生産したりと自給自足の蔵を目指したいという穏彦さん。酒蔵の枠を越え、地域の環境やこれからのライフスタイルを見つめた取り組みは、仁井田本家の代々掲げる「酒は健康に良い飲み物でなければならない」という教えを体現する、究極のホスピタリティであるようにも思えるのです。

日本の田んぼを守る——仁井田本家の夢

昭和40年代に全国で初めて「自然酒」(自然米のみで作られた日本酒)の醸造を達成して以降、仁井田本家では農業と密接に関わりながら、酒造りを進めてきました。2009年には農業生産法人「㈲仁井田本家あぐり」を設立。自然栽培に本格的に取り組む一方、一般の方が米作り・酒造り体験を通して、蔵の姿勢に触れられる「田んぼのがっこう」も毎年実施しています。現在は蔵で造られるお酒の原料米9割が契約農家、1割が自社田での栽培とのこと。
「田んぼの力を上げていくことは、うまい酒を造って蔵が続いていくために必要なこと。目標は蔵のある田村町金沢地区の田んぼ、60町分をすべて自然田にすることです。いつかそこまでいけたらいいですね」(穏彦さん)

仁井田本家
〒963-1151 福島県郡山市田村町金沢高屋敷139
TEL:024-955-2222
http://www.kinpou.co.jp/