代表取締役社長 唐橋 裕幸さん
1973年生まれ。大学卒業後、ワイン製造・販売会社、米国留学を経て、2004年にほまれ酒造入社。2011年に4代目社長に就任。
県下きっての大酒蔵が 世界一に立った理由
「会津の〝誉れ〞となるように」
そんな願いを込めた社名を掲げ、酒造りに励んできたほまれ酒造は、今年、創業100年の節目を迎えます。もともと米問屋を営んでいた唐橋家が、卸し先でもあった造り酒屋の業務を譲り受け、「加納酒造株式会社」を設立したのが1918年。〝ほまれ〞の名前を冠してから70年ほどになる現在では、福島県はもとより、東北でも有数の規模の酒蔵として確固たる存在感を示しています。
「平成元年のピーク時で5万5000石。当時は東北で3番目だったと聞いています。ここまで出荷量を増やすことができたのは積極的に県外へ販路を広げたことでしょうか。銘柄を〝会津ほまれ〞としたのも、県外で会津の酒と知ってもらうために有効だったようです」
そう語るのは、社長の唐橋裕幸さん。2011年に代替わりし、4代目として蔵を牽引する中、さまざまな改革で蔵に新風を送り込んできました。例えば商品開発では、いちごやゆずを使ったリキュールを考案。社長自らが原材料を探し回り、研究室で配合を決めたという商品で、海外でも人気があるそう。また、地酒専門店向けのラインナップを意識した「からはし」シリーズは、今後、蔵の一翼を担うブランドにすべく大切に育てている最中だと言います。
「幅広いラインナップは強みでもありますが、ニーズに応えすぎてしまっている面もありますね(笑)。容量別も合わせると100種類ほどはありますから。でも思い入れの深い商品が売れてくれるのはうれしいです」
ズバリ、ほまれ酒造のお酒を一言で表すとしたら?
「飲んだ後に余韻が残るようなお酒でしょうか。キレはありつつも、後から味わいがこみ上げてくるような。私はそれを〝押し味〞と呼んでいるんですけどね」
計算し尽くした味を実現すべく、原料処理や火入れ、貯蔵など、より良い環境作りのためには投資も惜しまない覚悟。たゆまぬ努力は実を結び、2015年には世界最大規模のワイン品評会・IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)で「チャンピオン・サケ」という最高賞に輝き、福島の日本酒を世界に向け堂々と発信してみせました。
日本酒に感動を 未来を見据えた挑戦
商品開発や設備を充実させることに加え、唐橋社長が行った改革。それは企業理念を作ることでした。名刺にも刻まれた「安らぎと喜び、そして感動を与えるものづくり」の一文は、まさにほまれ酒造の理想を体現する言葉です。
「人は安らぎを求めてお酒を飲みます。また、友人や家族と語りあいながら飲むことで喜びも生まれますよね。そこに感動を与えることができたら、きっと素晴らしい体験になるはず。私の大好きな映画や音楽などエンターテインメントのように、人の心を動かせるようなお酒を作りたいんです」
遠方に住む人、近くに取り扱い店がない人も買い物が楽しめるようインターネット販売を強化したり、1300坪という広大な原生林を活かした日本庭園を整備し、売店を訪れたお客さんが自由に散策できるようにするなど、開かれた酒蔵を目指す試みもそんな思いから生まれたもの。いずれは、ワインの一大産地でもあるアメリカのナパバレーを模して、会津の酒蔵をめぐるツアーを定着させるのが唐橋社長の夢でもあります。
「会津一円、そして隣の山形県米沢市を結ぶルートには酒蔵が点在していて、ナパの雰囲気に似ているんです。ツアー客が増えれば、お土産や飲食店、宿泊施設など街全体が盛り上がりますし、何よりかっこいいですよね!(笑)。でも逆に言えばそういうことをしないと生き残っていけないような危機感も感じているのです」
お酒の消費量が年々下降線をたどる中、いかに売り上げを伸ばしていくかは酒造業全体の問題。しかし、そこで諦めることなく、次なる一手を考え出してこそ、未来は拓かれるとも言えます。唐橋社長に言わせれば、「市場は無限にある」。世界一を見た酒蔵らしい力強い言葉です。
「自分たちの強みを最大限に活かして、ほまれブランドを強化していくこと。バランス感覚を大事に、これからも挑戦し続けたいと思います」
ほまれ酒造株式会社
福島県喜多方市松山町村松常盤町2706
TEL:0241-22-5151