今月のお酒は「斗南朱雀 純米無濾過原酒生詰」
戊辰150周年となるこの年に会津藩最強部隊 朱雀隊の意志を継ぐ酒が喜多方に生まれる。
過去、インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)での受賞歴もある実力派酒蔵が醸す限定酒の味とは、、、。
今月も福島県在住のfukunomo愛好家である林 智裕さん(@sake_kaeru)が、fukunomoを体験しての感想および紹介文を寄稿してくださいました。今月は喜多方市にある峰の雪酒造場。
日本酒としての「新しい甘さ」というべき味わいが万能のオールラウンダーとして働き、それぞれのツマミが持つ甘味、喉越し、脂、旨味、苦みや酸味を全て懐深く受け入れた上で共鳴するかのようと表現されるそのお酒は果たしてどんなお味だったのでしょうか。皆さま林さんからのレポートをぜひご覧ください。
※写真はfukunomo編集部撮影のものとなります。
【連載第9回目】
7月ですね。夏も本番になってまいりました!
福島では、名物である桃の本格シーズンも迎えてきています。
代表的なものだけをあげても、早生種の「はつひめ」「恋みらい」、続いて「暁星(ぎょうせい)」、八月上旬には主力の「あかつき」、お盆前後に「まどか」「紅錦香(くにか)」、八月下旬は「川中島白桃」「黄金桃」「ゆうぞら」、九月には「黄貴妃(おうきひ)」「さくら白桃」「甘甘燦燦(あまあまさんさん)」「黄ららのきわみ」など、福島では桃の品種が目白押し。(これでも出回る全品種のほんの一部でしかありません)
桃が、品種や作り手次第でその味や個性を大きく変えるのはワインにおける葡萄と同じとも言えますし、ほぼ一週間~10日ごとに入れ替わる、多彩な個性の味わいを愉しむなどというのも、日本酒の個性や多様性を愉しむ文化にも通じるところがありますね。ぜひ、機会があれば桃の食べ比べにも挑戦してみてください。
さて、今月の酒蔵は福島県喜多方市の「峰の雪酒造場」さんです。
喜多方ラーメンでも有名な喜多方市は、以前にご紹介した「会津ほまれ」さんをはじめとした非常に高い品質の日本酒を造る国内屈指の強豪蔵がひしめく土地です。
しかし喜多方の酒蔵はその高い評価に満足せず、常に新しい試みと進化を続けているところが多くみられます。
峰の雪酒造場さんも、そんな気鋭の蔵の一つ。
2016年には、世界最大規模の品評会であるインターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)にて純米酒の部での金メダルを獲得している他、国内では珍しい高品質の蜂蜜酒(ミード)を造る醸造元としても知られています。
最近では特に、すっきりとした風味の中にも上品で複雑な、しかし透明感の強い僅かな甘みをたたえた銘酒、「大和屋善内」が多方面で高い評価を得ています。
今回お届けするのは、その中でも一際珍しい「斗南朱雀 純米無濾過原酒生詰」です。
戊辰戦争の後に転封された会津藩の志士達が赴いた斗南藩(現在の青森県むつ市)の名と、会津藩が抱えた最強部隊「朱雀隊」から名を取ったお酒。(歴史的な逸話で有名な白虎隊は、少年兵たちの部隊でした)
このお酒がどのくらい珍しいかというと、そもそもなんと、まだ未発売品です。
《戊辰150周年》を記念した完全限定酒であり、本来クラウドファンディングへの出資で手にすることができる予定であるお酒です。
参考までにこのお酒の四合瓶二本のリターンを得るためには、6,500円の出資が必要で、つまり一本3,250円相当です。価格ももちろんですが、峰の雪さん自身は地元でも高い人気を誇っていながら今回の限定酒の存在は広くは知られておらず…。圧倒的に入手困難のお酒であることは間違いありません。
fukunomo…これだからやめられませんよね。。。
ハッキリ言いましょう。福島県民でもほとんどこのお酒、入手できません。
もっと欲しい!としても、おかわりも難しいかも…。
このお酒は希少な限定酒であり、かつ、鑑評会や国際コンクールの成績で言えば現状世界一と言っても過言ではない日本酒処である福島の、最先端を行く新進気鋭の杜氏による新作。杜氏自身もまた、過去に世界最大のコンクールIWCでの受賞歴もあります。
いってみれば、インテリアで言うミラノ・サローネで発表されたばかりの気鋭デザイナーによる最先端デザインのプロトタイプ(当然ながら、とても希少で高級でもあります)が、先行して手元に届いてしまうようなものです。
別の表現をすれば、まだジオン軍どころか味方にすら存在を知られていない最新鋭秘密兵器であるプロトタイプガンダムが、秘密裏のうちに一番最初にあなたの手元に届くようなものです。(ちょっとたとえがオタク的過ぎましたか?(笑))
今月のお酒 「斗南朱雀 純米無濾過原酒生詰」
ともあれ、まずはお酒を味わってみましょう。
一口目を口に含むと、さらりとしたのど越しと、柑橘類の皮を軽く絞ったかのようなフレッシュで心地良い僅かな苦み。続いて訪れる、白桃のような微香と瑞々しさ。良いですね。夏に合わせるのに、季節感もとてもぴったり。
このお酒は、いわゆる「辛口」ではありません。しかし、酒飲みに敬遠されるような「甘口」とも全然違うのです。
そもそも、この酒のレベルになると、従来の「辛口」だとか、「甘口」だとかいう観点で語るようなお酒ではないように思えます。
確かに甘いのかと言われれば、甘い…とも言えますが、その味わいをもって飲み飽きさせるようなことも無いと言えます。
敢えて言うならば、これは本当に美味しい艶々のご飯が「甘い」だとか、採れたての野菜が驚くほど「甘い」だとかいう感覚に近い、身体が自然と求めて止まないような「甘さ」ではないでしょうか。歴戦の呑兵衛であったとしても、飲み飽きずに心地良く酔いながら飲み続けられる酒。それでいて、かつ、日本酒を飲み始めたばかりの全く先入観が無い方にとっても美味しく飲みやすい酒。
この酒は、つまり、旧来に語られてきた「辛口」「甘口」という表現や枠組みを超えた、新しい世代の位置にあるのです。伝統の技術や矜持を生かしつつも、次の時代を切り拓こうという野心作です。
個人的かつ率直な感想としては、まるで新潟の酒のような澄んだ淡麗のキレの良さがありつつも、福島の酒「らしさ」を感じさせるふくよかな香りと優しい旨味。そして、伝統の先にある最先端の「ニューエイジ」ともいうべき味わい。これらが不思議と混じりあって化学反応を起こし、極めて高いレベルで調和しているかのように感じられます。
もちろん、「旨い」という一点においてははっきりと「間違いなく旨い」と断言できます。しかしながら、やはり古い概念や価値観での捉え方で収まるような酒ではないのです。
このお酒、単品でも美味しいのはもちろんですが、特におつまみとのペアリング・マリアージュによってもその真価を発揮します。早速、合わせてみましょう。
今月のマリアージュ/ペアリングセットは
まずは、今回のメインとなる笹の葉 鯖の干物。
脂、旨味、ニオイ、いずれにおいても非常にハイレベルなおつまみです。
ましてや、そこは料亭などでも高い評価を受けている「常磐もの」を扱っているいわき市の大川魚店さんが厳選した商品。その名に恥じぬ品質の干物を出してきます。焼いてみるともう、部屋中に旨味が充満してくるくらい。
このおつまみの強い味わいやクセを目の前にしても、このお酒はきっちり上手く相手に合わせてきますね。まるで合気道の達人であったり、剣術で言う「後の先(ごのせん)」(先に動いてきた相手の動きを見切り重ねて反撃する、いわゆる、カウンター)のように。まるで、会津藩士の中でも特に手練れの剣士を思わせるかのようです。
甘味にも似た脂の強い旨味が、お酒のほのかな甘みと旨味に重なりあって、理想的な調和をしてくれます。
鯖ほど「個の力」が強いおつまみであっても、きちんとペアリングとして上手にまとまる。旨味が共鳴する。
これはもはや、達人の技というべきでしょう。
続いては、さしこん。
四万十川の青のりを使っているとのことです。
これを良く冷やして、酢味噌と合わせると、これがもう、夏の暑さにくたびれた身体に、素敵な涼を届けてくれます。
この喉越しだけでも心地良いのですが、今回のお酒と合わせると、こんにゃく特有のニオイがこれまた酒が持つ深い懐の「甘味」に上手に絡め取られつつも、青のりの風味や爽快感などがしっかりと生かされます。
酢味噌が持つ酸味と優しい甘味もまた、お酒と混じりあってとても良い風味。
これは酢味噌ついでに、ホタルイカや小ぶりのヤリイカ釜揚げの酢味噌合えなどと合わせても良さそうですね。
さらに酢味噌以上に酸味との調和を楽しめるのが、今回同時に送られてきた山芋のしそ漬。
ピクルスなどにある酸味は、やはり夏酒との相性が抜群ですね。
これに続いて会津山菜あじつけと合わせると、山菜の持つ特有の心地良い程度のエグ味や少し強めの苦みをしっかりと受け止めてやわらかくいなしてくれます。特に、この山菜は缶詰ではありますが、出来れば冷蔵庫で冷やしてから食べるとより良い感じですね。
なんというか、想像以上に旨い。苦味がクセになる。これはいったい。
天麩羅でもあるまいに、私は今まで、脂の旨味に頼らない山菜が、こんなにも酒のつまみとして美味しいと感じたことは実はありませんでした。これもまた、ペアリング・マリアージュとしての大きな効果であると言えるのかもしれません。
〆には、郡山ブランド野菜とうみぎ丸。
トウモロコシを北海道では「とうきび」と呼びますが、福島県では「とうみぎ」と呼びます。甘い、甘い、甘~い綺麗な黄金色のトウモロコシが、ほろ酔いの身体に染み渡ります。宴会の〆のラーメン代わりになるくらいですね。
しかし、今回のおつまみいずれと合わせても、この酒は…なんというか、その日本酒としての「新しい甘さ」というべき味わいが万能のオールラウンダーとして働き、それぞれのツマミが持つ甘味、喉越し、脂、旨味、苦みや酸味を全て懐深く受け入れた上で共鳴するかのようです。正に、今までの概念では計り知れない新しい世代の酒というべきでしょう。
ここまで単品でも旨く、ペアリングでもここまで多様な味わいそれぞれへの引き出しを持っている酒というのは驚異的でもありますね…。流石、峰の雪さん。
最後まで飲み合わせてみると、今回のおつまみは一見地味目でもありながらも夏にきっちり合わせてあるだけでなく、実はそれぞれが甘味、苦み、脂、喉越し、旨味などで別々の味の引き出しを持っており、「斗南朱雀」の持つ「新しさ」やさまざまな表情を引き出すには、本当に相応しいものであったように感じます。さすがfukunomo。毎回考えられてますね。今回もとても面白かったです!ごちそうさまでした!
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