日本三大桜のひとつである『三春滝桜』が象徴的な城下町、
福島県三春町で酒造りを続けている佐藤酒造。
今号では、佐藤酒造が昨年新たに立ち上げた銘柄『三春 五万石』を取り上げます。
お話を伺ったのは、2016年の造りから杜氏となった齊藤哲平さんと、工場長の柳沼康之さん。
齊藤哲平さんは、グループ会社で食品の営業などを担当した後、製造部門での見習いを経て杜氏に抜擢された、異色の『サラリーマン杜氏』です。
杜氏 齊藤 哲平さん
1983年生まれ。問屋を営むグループ会社で食品営業職に従事したのち、佐藤酒造へ。蔵に入ってからは7期、杜氏としては2期、酒造りに携わっている。
齊藤さん「製造に携わるようになったのは、2011年の11月からですね。もともと事務や営業を行っていたのですが、こっち(製造)にこないか、という話があって。18年間勤めた前任の南部杜氏の元で、ゼロから勉強をはじめました。
想像していなかった異動ではありましたが、面白そうだなと感じて前向きな気持ちで製造に移ってきました。ほかの福島県内の酒蔵の方は、ハイテクプラザの清酒アカデミーで学ぶことが多いのですが、私は杜氏から直接酒造りを学んで、広島の酒類総合研究所で研修を受けていました。ただ、ハイテクプラザの鈴木賢二先生は三春町ご出身なので、とてもかわいがっていただいています(笑)。」
全く別の分野から転身されたばかりの頃は、大変なことも。
齊藤さん「製造するようになってから思い出したんですけど、私、手が不器用なんです(笑)。しかも当初は、米に関する知識がまったくなかったんです。情報が入ってきても前提となる知識がなければ聞いても分からないんですよね。まずは勉強で身につく部分だけでも努力しなければ、と必死でした。会社からも投資してもらって、いろいろなセミナーを受講したり。今も勉強、勉強、勉強です。」
齊藤さんが杜氏に就任してから、造りにも変化が現れました。
齊藤さん「私が下戸だということもあるんですが、後味をきれいにして、残らないようなタイプのお酒を目指したいんです。悪い意味での昔ながらのお酒の風味というのをなるべく出さないように試行錯誤しています。
製造技術もすごく大切にしているんですが、それ以上に、出荷までの貯蔵や管理にも会社を挙げて目を向けはじめたところです。『このレベルの酒ができるのであれば、もっとちゃんと貯蔵しないと』と内外から声が上がり、設備投資も活発に行うようになりました。マイナス15℃まで対応できる冷蔵庫や、福島県の蔵で初となる遠心分離機も導入したんです。」
地元を中心に愛され続ける『三春駒』を改善しつつ、新しい挑戦にも取り組みます。『三春 五万石』も、齊藤さんが提案し、新銘柄として醸造をはじめました。
齊藤さん「いま一番市場で人気になっているものを三春町で造ってみようと、スケベ心を出しました(笑)。香り高くて、甘さがふわっと広がって、原酒で仕上げて、冷温貯蔵して出荷するという。それをこの蔵で造ったらどんなものになるかなと。それが今回の『三春 五万石』。酒米の品種名の『五百万石』ではなく、『加賀百万石』と同じ意味で、三春藩は五万石の石高を有していたことから名付けました。」
今では人気も高い『三春 五万石』ですが、工場長の柳沼康之さんは、新しい味を受け入れることに違和感もあったそう。
柳沼さん「杜氏から、『違うブランドを立ち上げたい、こういう酒を造りたい』と提案を受けたものの、今までの酒とまるっきり違う印象の味で、『こんな酒売れんのかい!』と、当時はもう大喧嘩ですよ(笑)。
昨年、純米吟醸を2種類商品化し、実際に出荷してみると、東京から『どうしても扱いたい。やらせてくれ』と三春町の蔵まで訪問して、販売された方がいらっしゃいました。ここまで熱烈な評価を受けたのが、この酒を世に出して一番嬉しかったことですね。今年の3月には、やや個性を抑えた特別純米酒を出しました。2018年度の全米日本酒歓評会でもシルバー賞をいただくことができました」
『三春 五万石』ができたことで、三春町の内外に、新たな佐藤酒造ファンが急増しているようです。小さな城下町にある酒蔵から、今後も目が離せません。
佐藤酒造
福島県田村郡三春町中町67
TEL.0247-62-2816
http://www.boki.co.jp/sake/