近くを流れる宮川の名をとって「宮川屋」の屋号で始まった白井酒造店の創業は明和2年(1765年)と伝えられています。
長年、地元のお客様に向けた酒造りを中心に続けてきました近年は、全国の日本酒ファンの間でも評判となり全国新酒鑑評会でも6年連続金賞を受賞、東北清酒鑑評会・純米の部で最優秀賞を受賞されるなど目覚ましい活躍を続けられています。
蔵元杜氏の白井栄一さんに、貴重なお話を伺ってきました。
9代目蔵元 白井 栄一さん
1972年生まれ。大学で経営学を学び、卒業と同時に蔵に入る。福島県清酒アカデミー3期生。長年勤めた南部杜氏と共に新銘柄「風が吹く」を作り上げた。
1972年生まれで、現在は46歳です。22歳で大学を卒業して、就職活動はせずそのまま蔵に戻ってきました。私で9代目になります。戻ってからは、まず、父の下で酒を売る仕事から始めました。
父は、私とは真逆のタイプで、「外に出て、どんどん売れ」という考え方。私は、求められていない物をこちらから売りに行くのが苦手で、「これって本当にお客様が買いたい物なのかな」と考えてしまうんです。それで父とはよくぶつかっていたんですが、蔵に入って1年ほど経った頃、父が亡くなってしまったんです。本当に何も分からない中で9代目を継いだのですが、祖父や杜氏や蔵人や妻など、色んな人に助けてもらいながら、何とかやっていくことができました。
父が亡くなってからは、徐々に売上も取引先も減っていきました。そんな状況の中、自分なりのやり方を考えた結果、30歳くらいからは、売り先を新たに開拓する営業はやめて、良い酒造りに集中することにしました。自分が良いと思う商品、既にお取引のある酒屋さんの売上が伸びるような商品を造ろうと考えたんです。
酒造りは、福島県清酒アカデミーに通い、杜氏にも教わりながら、少しずつ覚えていきました。杜氏が優しい人で、酒造りについて「こうしたら良いと思うんだけど、どう思いますか?」と意見を求めると、「答えはもう自分の中にあるだろうから、まぁやってみろ。失敗するかもしれないけど、失敗しないと分からないことがある。経営者が自分の責任でやるんだから、思い切って失敗すれば良い」 と言ってくれました。山廃を始めたいと伝えたときも、「分かった。まずやってみんべ」 と言って手伝ってくれて、ありがたかったですね。
杜氏は高齢のため5年前に引退して、一昨年亡くなりました。今は私が先頭に立って、地元の蔵人数名と一緒に酒造りをしていますが、杜氏から教わった『失敗を恐れずにまずはやってみる』というスタンスはずっと続けています。
現在は『萬代芳』と『風が吹く』の2つの銘柄を主に造っています。『萬代芳』は、地元を中心に昔から販売している銘柄で、今までの味を引き継ぎながら、昔から支えてくださっているお客様の声に応えられるお酒を造りたいと思いながらやっています。呑んだ時のインパクトは少し弱いかもしれないけど、呑み飽きしない、ホッとするような味の商品が多いですね。
『風が吹く』は、平成17年度から始めた新しいブランドです。山廃仕込みですが、熟成酒っぽさは出さず、フレッシュな味わいになるよう意識しています。私が濃厚な味が好きなのと、有機栽培米を使うのに人工乳酸を添加したくないと思い、山廃を選びました。
蔵の方針として、自分たちにできる範囲で、無理せず、一つひとつの仕事を丁寧にやることを大切にしています。「昨年はこうだったから今年はこうしよう」「もっと美味しくするにはここを変えよう」と地道に繰り返し、お客様に「美味しい」と喜んでいただけた時は本当に嬉しいです。悪く言えばいきあたりばったりなんですが(笑) これからもそんな感じで少しずつでも前に進んでいければと思っています。
白井酒造店
福島県大沼郡会津美里町永井野中町1862
TEL.0242-54-3022