会津で最も古くて、最も新しい酒蔵――。
そんな不思議な表現をされるのが、“会州一(かいしゅういち)酒造”とも呼ばれる山口合名会社です。
創業1643年。
酒蔵としての歴史は360年以上を誇り、会津で最も古い蔵です。
しかし、休業を経て蔵を一から建て直しているため、再開した年の2007年から数えると、会津で最も新しい蔵でもあります。
歴史と新しさとを併せ持った蔵とは、一体どのようなものなのでしょう。 休業の後に再建を決めた、十五代目の山口佳男さんにお話を伺いました。
小さな蔵に詰まった大きな工夫
「会津で一番の酒」というのが由来の「会州一(かいしゅういち)」を造る山口合名会社は、面白い場所に蔵を構えています。
スーパーマーケットの敷地内、一見すると倉庫のような蔵の広さはおよそ60坪。
「福島県で一番、ひょっとすると、日本で一番小さな蔵かもしれません」と社長の山口さん。
山口合名会社は360年以上の歴史を持ち、社長の山口佳男さんは15代目にあたります。
かつては1,500坪もの広大な敷地で酒造りを行っており、昭和初期の全国清酒品評会では日本一に輝いたことも。
しかし、別事業の失敗により、廃業を考えるほどの窮地に立たされてしまいます。それでも「『会州一』を失くしてしまうのはもったいない」という周囲の声で、山口さんは「もう一度酒造りを」と奮起しました。
1,500坪から60坪。
この限られたスペースで酒を造るには、今までと同じやり方でというわけにはいきません。
強い味方になってくれたのが、長い付き合いである杜氏の櫻井光治さんです。
いくつもの蔵で酒造りを経験しており、蔵が再開するとなると、すぐに戻ってきてくれました。
設備はすべて最小のものを選び、建築士と共に図面に向かって、少しでも効率的な動線にすべく知恵を絞りました。
コンパクトながら計算され尽くされた配置は、まるで秘密基地のよう。
ここから170石の酒が生み出されています。
杜氏が米から育てた一本
杜氏の櫻井さんは、米農家でもあります。
その年に収穫した米を初めて仕込む「初しぼり」は、櫻井さんの育てた米を使って醸すのが毎年の習わし。
美山錦(みやまにしき)を使った、華やかな香りを持つ一本に仕上がります。
「この時期なら、ぜひ『初しぼり』をみなさんにお届けしたかった」という山口さんの強い想いで選ばれた一本です。
お米の味わいも意識しながら飲んでみてください。
福島ならではの米で醸したい
山口さんは、「夢の香(ゆめのか)」や「うつくしま煌(きらめき)酵母」など、福島県独自の酒米や酵母を使った酒造りに積極的です。
「日本酒は地産地消が一番。できる限り福島県のものを使いたいのです」と山口さん。
ただでさえ、馴染みのない米や酵母を使うことは大きなチャレンジです。
しかもこの限られたスペース。
むやみにあれもこれもと手を広げることもできません。
「うちの蔵の大きさじゃ、新しいことを一つ始めるには、これまでやってきたことを二つ止めないといけないくらいです」と山口さんは笑います。
それでも、次は酒米「福乃香(ふくのか)」に挑戦したいのだといいます。
在庫限りで販売を止める普通酒に代わる一本を、福島の米で--。
歴史の重みと、挑戦の価値を知る山口合名会社。
小さな蔵は、日本酒の大きな可能性を描いていました。
これからどんな日本酒が生まれるのか、楽しみでなりません。
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山口合名会社
福島県会津若松市相生町7-17
TEL:0242-25-0054
http://blog.goo.ne.jp/kaisyuichi/