江戸末期にあたる嘉永三年。
幕末へと向かう時代の変革期に、末廣酒造は産声を上げました。
創業当初の姿を見ることのできる「嘉永蔵」は国の登録有形文化物に認定されており、長い歴史を物語っています。
「うちは代々チャレンジャー揃いなんだよ」と語る七代目当主・新城猪之吉さん。
老舗でチャレンジャーだという末廣酒造について、猪之吉さんにお話を伺いました。
末廣の歴史は挑戦の歴史
末廣酒造の歴史は挑戦にあふれています。
明治時代には、福島県で初めて杜氏による酒造りを実現。
また、今や全国の蔵に広まった「山廃(やまはい)造り」も、末廣酒造が確立させたもの。
会津の酒をもっと良くしようと仲間たちに呼びかけた「会津杜氏会」は、今や会津の酒造りを支える一大組織です。
これまで積み重ねてきた歴史や伝統はもちろん大切ですが、そこに固執しないのが末廣酒造。
時代を、お客様を見つめ、日々挑戦と変化を繰り返してきたのです。
窮地にこそ人とのつながりを
「俺は人間関係だけでこれまでやってきたようなものだからね」と笑う猪之吉さん。
効率良く、システマチックに…というのが主流になったとしても、相手の体温を感じられるような、昔ながらの関わり方を大切にしたいのだといいます。
その関係性は、ピンチの時にこそ生かされてきました。
例えば東日本大震災。多くの酒蔵が心を折られて立ち止まり、販売会にも出てこられなくなってしまいました。
猪之吉さんは、皆へFAXで直筆のメッセージを送ったそうです。
「出て来い」「一緒に売ろう」――その激励の言葉を、「宝物だ」と今でも大切に持っている仲間もいます。
そして2020年のコロナ禍。
猪之吉さんは、注文をくださったお客様へ感謝の気持ちを込め、直筆の手紙を同封しました。
「なんせ暇だったからね、夏は1日50通くらい書いていたよ」。
この手紙は大きな反響を呼び、お礼や激励のメッセージが多く寄せられました。
赤べこに願いを込めて
今月お送りした一本は、赤べこのラベルが印象的です。
実はこのお酒、猪之吉さんが発案し、販路開拓まで手がけた特別なもの。
「“干支酒”というのは昔からあったんだよ。今年の干支は牛、会津で牛といえば赤べこ。赤べこは疫病除けの伝説を持っているから、この時期にぴったりでしょう」。
新年の縁起物にと2,000本を造りましたが、あっという間に完売。
追加生産したものをお届けすることができました。
中身の『末廣 山廃 純米吟醸』も、猪之吉さんが企画したものです。
末廣が生み出した「山廃造り」を、吟醸酒にしたかったのだといいます。
冷たくしても温かくしても旨いとのこと。
「温度によって驚くほど味が変わるから、最初は冷やで、次は燗で…と順に出していけば、同じ酒だなんて思わないはず。これ一本あれば、お客様を立派におもてなしできますよ」。
酒は人と人をつなぐもの。
「日本酒を飲むのは、人と“親密”になるためだ」と猪之吉さんは信じています。
また皆でにぎやかに盃を交わす日が早く来ますように――。
願いを込めて、赤べこのお酒をいただきましょう。
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末廣酒造株式会社
福島県会津若松市日新町12-38
TEL:0242-27-0002
https://www.sake-suehiro.jp/