日本酒に焼酎、ウイスキー、スピリッツ、リキュール。
ビールとワイン以外は製造することができるというのが、福島県郡山市の笹の川酒造です。
それぞれの酒類に合わせた設備が必要なので、工場はかなりの広さを誇ります。
とはいえ、「酒造」という名の通り、もともとは日本酒から歴史が始まっています。
もちろん今でも、主力は日本酒です。
10代目にあたる社長の山口哲蔵さんと、常務兼杜氏を務める山口敏子さん。
どのような想いでお酒と向き合っていらっしゃるのか、ご夫妻にお話を伺いました。
(写真右)代表取締役 山口哲蔵さん
笹の川酒造の10代目として、経営を担う。2015年に「5代目 山口哲蔵」を襲名。
(写真左)常務 山口敏子さん
生家は郡山市内の老舗弁当店「福豆屋」。結婚を機に笹の川酒造に入社し、2016年からは杜氏として酒造りを行っている。
笹の川の名が知られなくてもいい
「酒ばかりが目立たなくていいんです」。
“理想の酒”について伺ってみると、山口社長からはそんな言葉が返ってきました。
「お酒だけをずっと飲むのなら個性的な味が必要なのかもしれませんが、そんなことは稀でしょう」
家で居酒屋で、どんなシーンでも、酒は何かしらの食べものとセットになっています。
食事を終えたときに、「おいしかったね」という感想が出てくればそれでかまわないというのです。
「飲み飽きず、引っかからず、ずっと飲み続けてもらえる酒が理想です」
「社長は『酒を主役にするな』とよく言うんです。『笹の川』の名前も目立たなくていいって、ラベルの表から抜いてしまった時代もあったんですよ」と敏子さんは苦笑い。
山口社長は「普通の酒でいいんですよ。ひとつくらいこんな蔵があってもいいでしょう」と応じます。
日々の晩酌や仕事帰りの居酒屋で、“普通”の日本酒を飲む人にそっと寄り添う…、それが笹の川酒造の酒なのかもしれません。
みんながいてくれるから、がんばれる
山口社長の話を聞きながら、「杜氏としては、どうせ造るなら名前も知ってほしいですけれど」と敏子さん。
急きょ先代杜氏の後を継ぐことになったのは2016年のことでした。
酒造りの知識はあっても、自分が全責任を担うというのは全く別のこと。
上手くいかないことばかりで、1年目は笑う余裕すらなかったといいます。
「今だから言えますが、離婚届を覚悟しながら取り組んでいました。社長の妻である自分が酒造りを投げ出すというのはそういうことですから」と振り返ります。
たくさんの反省を踏まえて挑んだ2年目の酒造りで、福島県の鑑評会の金賞を受賞。
それを「ご褒美」だと糧にして、全力で酒と向き合ってきました。
「離婚届」という言葉からわかる通り、酒蔵で杜氏を務めるという重圧は相当なものだったはずです。
それを跳ね退けここまで走り続けた理由を伺ってみると、「…社員かな」とぽつり。
「そう、社員のおかげです。うちは若い社員が多くて、ありがたいことにみんな長く働いてくれているんです。みんなががんばっているんだから、私だけ怠けていられないでしょう」
大好きなシャンパンのような日本酒を造るのが夢だという敏子さん。
ほど良い香りで甘すぎず、気が付いたら飲み干してしまっているような…と語るそのイメージは、山口社長の理想である“飲み飽きない酒”と重なっているように思えました。
明るいラベルで春を味わって
今回お届けしたのは、「春酒」と呼ばれる1月〜3月限定のお酒です。
毎年この時期に販売するお酒で、季節感を楽しんでほしいと選びました。
明るいラベルが印象的で、卒業・入学・入社など、節目の多いこの時期のお祝いごとにぴったり。
お花見の良いお供にもなりそうです。
この3月で、あの震災から10年が経ちます。
福島に根付く酒蔵として、「どんな形でも、福島県の役に立つことができれば」と山口ご夫妻は強い口調で語ってくださいました。
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笹の川酒造株式会社
福島県郡山市笹川1丁目178
TEL:024-945-0261
http://www.sasanokawa.co.jp/