創業一八六二年。
全国新酒鑑評会では、九年連続で金賞を受賞する豊國酒造。
昔ながらの手仕込みにこだわった日本酒を造る一方で、日本酒を使ったスパークリングや梅酒、リキュールなど、幅広いラインナップを持っています。
新しいことをどんどん始めてきたのは、五代目である髙久禎也(たかく・さだや)さん。
その姿勢は、三年前に蔵に戻ってきた六代目の髙久功嗣(たかく・こうじ)さんにも共通しているようです。 お二人の酒造りを覗かせていただきました。
5代目蔵元/代表社員 髙久禎也(たかく・さだや)さん(写真左)
製薬会社で勤務した後、1982年、先代の急逝につき蔵を継ぐ。当初は販売を担当していたが、やがて蔵元杜氏として酒造りも担うように。
6代目蔵元/専務 髙久功嗣(たかく・こうじ)さん(写真右)
製薬会社での勤務を経て、30歳の節目である2018年に蔵へ戻る。2020年より毎年数本ずつ酒造りを任されている。
何事もやってみなくてはわからない
蔵へ戻って3年ほどになる功嗣さん。
「最初は洗米が嫌で嫌で仕方なかったです」と笑いながら語ってくださいました。
洗米を行うのは、まだまだ雪が降る1月〜2月。
しかも、豊國酒造では洗米を手作業で行っています。
流した水がそばから凍っていくような蔵で、水の中に手を入れるのです。
ひとつの銘柄につき、4人がかりで数時間。
それを銘柄の数だけ行っています。
今では機械で洗米を行う蔵も多いですが、「酒造りは伝統文化でもありますから」と功嗣さん。
「正直なところ、手作業でも機械でも、お客様にわかるほどの差はありません。でも、変な言い方ですが、それなら手洗いでもいいと思うんです。代々続けてきたことなら、それを私たちの想いとして継承していきたい」
功嗣さんは、2年前から責任醸造を任されるようになりました。今シーズン新たに挑んだのは「山廃」(※)です。
禎也さんは「私は嫌だったんですけどね…」と苦笑。
どれほど経験があっても、初めて造る酒は蔵にとってリスクが大きいもの。
しかし功嗣さんは粘りました。
「やってみてうまくいかなかったなら仕方がありませんが、挑戦してみなくては何もわかりません。まずは新しいことをしてみたかったんです」
禎也さんも、スパークリングや梅酒など、新しい酒を次々に造ってきました。
ですから最後には「同じ酒ばかり造っていると飽きてしまうからね」と見守ることに。
「父は頑固なところもありますが、最終的には受け入れてくれるので、衝突せずにすんでいます」と功嗣さん。
見事成功した豊國酒造初の山廃仕込みは、夏頃にお披露目の予定です。
(※)「山廃仕込み」は日本酒の製法の一つ。苦みや酸味の効いたどっしりとした味わいになる傾向がある。
福島オリジナルの米を味わって
今月お届けした『豊國 特別純米 福乃香 原酒』は、その名の通り、酒米『福乃香』を使った一本です。
『福乃香』は、2019年に生まれた福島県オリジナルの酒米。
新しい分、酒蔵にとってはまだまだ使い慣れない未知の米です。
「良くも悪くも、突出した酒米ですね」と禎也さん。
いわく、吸水時間がほかの米の半分ほどで済むなど、これまで扱ってきたどの米とも違う特徴があるのだそう。
米の特徴を理解し、心から納得のいく酒に仕上げるため、何度も実験を行い、苦心の末に出来上がったのが『豊國 特別純米 福乃香 原酒』です。
精米歩合は60%とさほど高くなく、米の味わいをじっくり楽しめるように造られています。
「フレッシュさを味わいたいなら冷やがおすすめですが、温めると米の味が出てくるので、それも面白いです」と功嗣さん。
「日本酒の飲み方にタブーはありません。いろいろ試して、好きな飲み方を見つけてほしいです」
世界の酒を知ることが、日本酒につながる
豊國酒造の特徴は、瓶内二次発酵のスパークリングやリキュール、白麹仕込みなど、幅広いラインナップにあります。
数年前から禎也さんが取り組み始め、今では大きな強みに。
コロナ禍で、海外からの引き合いが増えたといいます。
この1年、オンラインで数十回もの商談を行ってきた功嗣さんは、海外の文化を学ぶ大切さを痛感したといいます。
「『そのお酒は、ワインで例えるとどんなかんじ?』とよく聞かれるんです。そこで『これは日本酒なんです!』と押し通しても意味がありません。世界の基準はワイン。まずは相手の文化を知って、その上でアピール方法を考えなければ」
幸いにも、世界に誇れるラインナップはもう揃っています。
世界が落ち着いた時、すぐに動き出せるように――。
新しいことに挑み続ける父子が見つめているのは、世界です。
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豊國酒造
福島県河沼郡会津坂下町字市中一番甲3554
TEL:0242-83-2521
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