その名の由来は、猪苗代湖畔にある名倉山。
名倉山の美しさに魅了された初代が、わざわざ改名して生まれたのが名倉山酒造です。
当時の主流だった越後杜氏ではなく南部杜氏を起用したり、高品質清酒研究会…通称“金取り会”を立ち上げたり。
常識や前例にとらわれず、ただひたすらに酒の質にこだわる――。
それが、代々受け継がれている名倉山酒造の持ち味です。
五代目である松本和也さんは、数年前まで金融業界で働いていました。
異業種から転身した松本さんの酒造りとは、どんなものなのでしょうか。
変えること、変えないこと
蔵を継ぐ前に、日本酒以外の、外の世界を知っておきたいと考えていた松本さん。
多くの中小企業に触れることができる金融機関を選び、無我夢中の数年を過ごします。
そして蔵に戻ると、見方が少し変わっていました。
「一度蔵を離れたことで、客観的に見られるようになったのかもしれません。長年当たり前に行ってきたことの中にも、変えた方が良いことがたくさんあるのではと考えるようになりました」
松本さんが力を入れたのが、季節商品や限定商品などの新商品開発です。
この5年で、商品数はおよそ1.5倍になりました。
「私自身がそうなんですが、毎回同じ酒を飲むより、季節感や限定感があった方が楽しいと思うんです。特に若い方に飲んでもらうには、そういうスポット商品が必要だと考えました」
一方で、あえてそのまま、変えない部分もあります。
「名倉山酒造が大切にしてきた“きれいなあまさ”ですね。酒の綺麗さ、米のやさしい甘さ……これは全ての酒のベースです。そこに何をどう足すかが私の役目だと思っています」
蔵の歴史、自分のアイデア、蔵人の意見、流行、お客様の声……。
これらのバランスを取りながら、何を残して何を変えるのか、松本さんは模索を続けています。
毎年成長する、挑戦の酒
今月お届けした一本は、『会津士魂 特別純米』。
『会津士魂』は、松本さんが蔵に戻って初めて立ち上げたブランドです。
限られた特約店のみで販売するこのお酒のコンセプトは、「毎年成長する酒」。
「蔵人が挑戦する機会をつくりたかったんです。ですから、試したことのない米や技術を積極的に取り入れています。特別純米は、福島県のオリジナル酒米『夢の香』を使用しました。米の旨みを感じつつ、最後にスッと締まる酸味を味わってください」
こだわりは、全量瓶貯蔵。出荷時に詰め替えしないので、酒が空気に触れる機会が最低限になり、より鮮度の良い酒を届けることができます。
ただし、瓶の貯蔵スペースが新たに必要になること、一升瓶・四合瓶といった瓶ごとの出荷本数の管理など、実現するのは簡単ではありませんでした。
それでも、松本さんと蔵人たちとが意見を交わし合って生み出した『会津士魂』は、このコロナ禍でも想像以上の売れ行きを見せました。
「今回の反省を生かして、次はどんなことに挑戦しようか…今からワクワクしています」
この蔵を後世へ残すために
金融機関時代、さまざまな中小企業の経営者と接してきたという松本さん。
自然と、酒造りだけでなく、会社経営についても考えるようになりました。
どんな形であれ、「名倉山酒造」という蔵を後世に残したいのだといいます。
「長年に渡って、地元の方を中心にたくさんの方が名倉山の酒を飲んでくださっています。蔵がなくなるというのは、その人たちを裏切ることになる。だから、代々続いてきたこの蔵は残さなくてはいけないんです。極端な話、自分が経営者であることにはこだわりません。名倉山がずっとあり続けるために、必要なことをするだけです」
現在、福島県清酒アカデミーに通っており、県内各地の酒蔵との繋がりも生まれたという松本さん。
諸先輩方から学ぶことも多いそうです。
金融という別業界にいたからこそ持ち得た松本さんのアイデアが加わり、名倉山酒造は変革の真っ最中。
これからどんな発展を遂げていくのでしょうか。
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名倉山酒造株式会社
福島県会津若松市千石町2番46号
TEL:0242-22-0844
https://nagurayama.jp/