新幹線が通るJR郡山駅から徒歩15分。
酒蔵としては驚くほど好アクセスの場所に、佐藤酒造店は位置しています。
1710年の創業からずっと変わらず、かつての奥州街道沿いのこの場所に。
当時、蔵の裏手には井戸があり、敷地内には藤の花が咲いていました。
その美しい光景に魅了された当時の二本松藩主が、『藤乃井』の銘を授けたと言われています。
十四代目にあたる先代が急逝して、一年足らず。
蔵を支える二人の女性に、現在とこれからの酒造りについて伺いました。
怒涛の一年を振り返って
先代の社長・14代目佐藤彦十郎さんが突然倒れたのは、2020年1月のこと。
造りの真っ最中でした。
誰も予想していなかったことで、当然引き継ぎなど行っていません。
葬儀をする余裕もなく密葬を行い、必死で酒造りを続け、蔵の体制を整え…。
ようやく葬儀をすることができた時には、3月になっていました。
2021年2月には震度6弱の地震で蔵に大きなヒビが入り、コロナの影響は今年も続き…と、本当に目まぐるしい日々だったと酵さんは振り返ります。
「もう、記憶がないくらいあっという間でしたね。先代は、酒造りも経営も事務仕事もしていたので、その全てを急に引き継がなければいけなくなって…。ひと息つくヒマもなく、というかんじでした」
「あれほどいろいろあっても変わらない味をお届けできたのは、杜氏さんをはじめ、蔵のみんなのおかげです」と修子さんも話してくださいました。
日本酒初心者にもやさしい一本
6年前、佐藤酒造店は設備を一新しました。
長年使っていた釜や麹室、冷蔵庫などを思い切ってすべて買い替え、内装にも手を入れました。
同じ造り方でも、設備を変えることで「よりきれいな味わい」になったといいます。
今回お届けした『ふじや彦十郎 純米吟醸』もそうです。
「銘柄としては歴史ある一本ですが、味わいは変わっています。設備のリニューアルで、よりすっきり、飲みやすい味わいになったと思います。温かい後味もいいんですよ」と修子さん。「本当に飲みやすいお酒で、普段はあまり日本酒を飲まないという方にもおすすめです」と酵さんも続けます。
もう一つの代表銘柄である『藤乃井』は、今年ラベルをリニューアルしたばかり。
筆文字で歴史を感じさせるラベルが、きらきら輝くホログラムを使ったラベルに生まれ変わりました。
「お客さんにも、『ラベル変えたら〜?』なんて言われていたんです」と酵さんが笑いながら教えてくれました。
歴史あるものだったとしても、変えるべきところは変えてゆく。
お二人の姿勢が伝わるエピソードです。
今年こそ、悲願の金賞を
新米が収穫されると、今年も酒造りの時期が始まります。彦十郎さんのいない二回目の造りです。
「父は、口数が多い人ではありませんでした。でも、とにかくお酒が好きで。いつも『美味い酒を造ろう』と、そればかり言っていた気がします。向こうで『ああ、美味いな』と言ってもらえるようなお酒にしたいですね」と酵さん。
狙うは、全国新酒鑑評会の金賞です。
「入賞でも十分ありがたいんですが、そろそろ念願の金賞を獲りたいです。先代もずっと目指していましたから」と修子さんが強い想いを口にします。
金賞を獲り、いずれはすべて県産の米で酒造りを――。
さまざまな波を乗り越えた佐藤酒造店は、新しい時代に入っていくのでしょう。
これからどんなお酒が生まれていくのでしょうか。
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有限会社佐藤酒造店
福島県郡山市富久山町久保田字久保田5
TEL・FAX:024-922-1763