「この味がいいんだ」
「いつ飲んでもほっとするよ」
地元の方々がそんなふうに誇りにするお酒が、いわきにあります。
生産量の9割近く、ほぼすべてが地元で消費される酒―。
それほどまでに地元で愛されるお酒とは、酒蔵とは、どんなものなのでしょうか。
福島県の海側・浜通りに位置する数少ない酒蔵のひとつ、四家酒造店。
秘蔵のお酒を、その想いとともにいただきましょう。
ほぼ県外へは出回らない、地元で愛される酒
今月お届けしたのは、四家酒造店の代表銘柄である『又兵衛』の原酒です。『又兵衛』というのは、蔵を開いた初代の名前。無類の酒好きで、自分で楽しむために酒造りを始めたといわれています。
「料理の邪魔をしない酒ですね。さらっとしていて、口の中をリフレッシュさせてくれます。そのままでも、ロックやハイボールにしても。おつまみは、お肉など脂のあるものが合うと思います。ただ、どんな飲み方でも、どんな食べ方に合わせても、安心して飲んでもらえる一本ですよ」
四家酒造店の日本酒は、9割近くが地元で消費されているため、県外で飲める機会はとても貴重です。じっくり味わって、好みの飲み方、好みのおつまみを探してみてください。
酒蔵は、地域の文化の中心
四家さんは四家酒造店の七代目。物心ついた頃から、酒蔵は生活の一部でした。蔵で遊び、米を味見し、冬は泊まり込みの杜氏さんとおしゃべりをし……。酒蔵を継ぐのは自然な流れだったといいます。また、日本酒ばかりでなく、歴史にも興味を持つように。
「蔵や家をはじめ、ずっと古いものに囲まれていたからでしょうか、気づけば歴史が大好きになっていました。大学でも歴史を専攻して、今ではいわきの文化財保護活動に携わっています」
現在の酒蔵は明治時代に建てられたもので、趣が感じられます。酒蔵は文化の中心でもあるのでは―と四家さん。「お蔵さん、酒屋さんって、歴史ある古いところが多いですよね。酒を造るばかりではなくて、人が集まる場所として、はるか昔から文化的な中心を担ってきたのではないでしょうか」
特に東日本大震災以降は、地元・いわきの文化を遺すという想いがますます強まったそうです。
もっと外へ―開かれた蔵に
実はほとんどお酒が飲めない体質だという四家さん。しかし、お酒の場は大好きです。
「お酒は、人と人をつなぐ強い力を持っています。しかし、コロナ禍で、その“つながり”の力が削がれてしまっています。本来持っていたお酒の力を、どうやって取り戻すのか……。これからの大きな課題です」
また、これからはいわきの外へも目を向けていきたいといいます。「もちろん、蔵がここまで続いてきたのは地元のみなさんのおかげです。いわきが大切なのは当たり前。その上で、より外へも“開いて”いく必要があると思います。『これがいわきの酒だよ』って、どこへでも胸を張って持って行ってもらえるような、そんな酒でありたいです」
いわきの魅力を伺ってみると、「うーん……ずっと住んでいると、“何にもない”って言いたくなっちゃうけど」と笑い、こう続けます。「でも、何にもないけど、何でもあるんです。山も海もあって、カラッとした開放感がありますよ。もちろん魚介類も美味しいです。海の幸と、それに合う辛口の酒がいわきの名物。ぜひ味わいに来てください」
まずは今回のお酒で、いわきの風を感じてみてください。