「会津のよさは酒の良さ」―。
福島県内はもちろん、かつては東京でも
このキャッチコピーのテレビCMが流れていました。
今でも、花春酒造といえばこのフレーズが思い浮かぶ人が多いといいます。
2016年の事業譲渡により、花春酒造は体制を大きく変えました。
現在、創業300年を超える酒蔵を引っ張っているのは二人の女性です。
出身地も、社歴も、専門分野も異なるお二人。
共通するのは、 “お客様が心から喜んでくれる一本を―”という想いです。
お二人が立ち上げたブランド「結芽の奏」を中心に、お話を伺いました。
社員一丸となった酒造り
今月お届けしたのは「結芽の奏」ブランドの2本目となるものです。「結芽の奏」ブランドは、花春酒造300周年を記念して生まれたもので、歴史ある「花春」ブランドと並ぶようにと願いが込められています。この「結芽の奏」について、政元さんは「社員みんなで連携したからこそ出来たブランドです」と語ります。
「10年ほど前は、製造は製造、営業は営業……と部署ごとにばらばらで、互いに何をしているのか、本当に知りませんでした。営業は、出来上がった商品を見て、『次はこれを売るのか』『鑑評会にこれを出品するのか』と知るほどだったんです」
このままでは、お客様の欲しいものとかけ離れた酒になってしまう―。営業として日々お客様と接している政元さんは危機感を抱きました。自分たちが造りたい酒から、お客様が買いたい酒へ舵を切らなくてはいけない。そのためには、営業・製造など部署を問わず、社員が一体となって酒造りと向き合う必要がありました。営業の中で聞こえてきたお客様の生の声を少しずつ製造へ伝え、製造からは蔵の状況を伝えてもらい、少しずつ互いの仕事を知っていきました。そして今では、「今日の仕込みの内容も全員が知っています」とのこと。
この新たな体制で生まれたのが、花春酒造の二本目の柱を目指す「結芽の奏」ブランド。名前も、ブランドのストーリーも、ラベルデザインも、すべて社内で考案しました。
気分を変えて、ワイングラスで
ブランド2本目となる『結芽の奏 純米大吟醸 フルーティー』は、コロナ禍だからこそ生まれたものだそうです。家飲み需要が増え、「もっと違った飲み口のものがほしい」という声をよく聞くように。1本目は魚料理と合うように造ったので、次は肉料理や洋食ではどうだろう……というのが始まりでした。
そうした要望を形にしていくのは、杜氏である柏木さんの役目です。「たまには酒器を変えてワイングラスで…という話もあったので、華やかで明るい、リッチなイメージを描いていきました」
何年酒造りをしていても、笑顔で飲んでいるお客様を見たり、「美味しかったよ」という言葉を聞いたりすることがこの上なくうれしいという柏木さん。「私は、仕事が終わった金曜日の夕方くらいからゆっくり飲むのが好きなんです。『今夜は何を食べようかな』という時に、この一本を思い出してもらえたらうれしいですね」
日々の晩酌で気軽に飲めるように、リーズナブルな価格にもこだわりました。ひとくち含んでみると、「日本酒ってこんなに飲みやすかったっけ?」と驚くかもしれません。日本酒を飲み慣れていない人も、肩肘張らずに楽しめるお酒です。
未来へ種を蒔く
2020年から取締役を兼務しているお二人。営業と製造というこれまでの分野に、経営という観点も加わりました。それぞれの立場から、今後の目標を聞かせていただきます。
「大量生産も少量生産も、どちらもできるのが花春の強みだと思っています。安定した品質のものを大量生産しつつ、少量生産でチャレンジングな酒造りも行っていきます。今後は海外展開にも力を入れていくつもりです」と政元さん。
「何年やっていても、酒造りは本当に奥が深いです。これからは、若い人にもこの酒造りの魅力を伝えていきたいですね。『酒造りをしていてよかった』と日々感じてもらえるような環境をつくりたいです。自分の技術を伝えて、育てていく側に回ろうかなと思っています」と柏木さん。
300年の歴史を誇る老舗酒蔵に、新しい風を送る政元さんと柏木さん。お二人が蒔いている種から、どんな芽が出て、どんな花が咲くのでしょうか。楽しみにしたいと思います。