福島県のほぼ中央に位置し、「福島のへそのまち」と呼ばれる本宮市。
市内唯一の酒蔵である大天狗酒造は、本宮に蔵を構えて、
今年でちょうど150年になります。
印象的な名前は、倉庫に眠っていた籠の中から
天狗の面が出てきたことに由来しています。
天狗はお酒が大好きという言い伝えもあり、
守り神の意味で「大天狗酒造」と名付けられました。
若くして杜氏を務める小針沙織さんに、
蔵のこと、本宮のこと、そして祭りのことをお伺いしました。
祭りで四季を感じる
大天狗酒造が製造する日本酒の8割は、地元・本宮市内で消費されています。特に蔵が忙しくなるのが、毎年10月に行われる秋祭りの3日間。『もとみや秋祭り(安達太良神社秋季例大祭)』では、お酒を奉納し、皆で御神酒をいただきます。そこに欠かせないのが、大天狗酒造のお酒なのです。
「お祭りには小学生の頃からずっと参加しています。毎年楽しみで楽しみで……。お祭りがないと、その後のハロウィンもお正月も来ないんですよ」と語る小針さんは、根っからのお祭り好き。昨年のオリンピックでは、聖火ランナーと、開会式のプラカードベアラーを務めました。
最も盛り上がるのは秋祭りですが、春・夏にも祭りがある本宮市。春・夏・秋と祭りを終え、冬は酒造り……というのが、本宮に蔵を構える大天狗酒造の1年。お祭りが季節の区切りになっていました。
しかし、そのお祭りは2019年以来3年連続中止に。台風19号による浸水被害と、コロナ禍によるものです。
「お祭りがないと季節がいつなのかよくわからなくなってしまって、ここ数年何をしていたのか記憶がないんです(笑)ようやく今年は開催できそうなので、皆でどういう形にしようか考えています」
秋は、熟成感をゆっくり味わって
今月お届けした『卯酒』は、蔵に戻った小針さんが初めて一から造った銘柄です。
可愛らしいネーミングの由来は、小針さんが卯年だから。せっかくなら自分ならではのお酒を――と、これまでの大天狗酒造にはなかった味、自分が好きなタイプの味を追求。フルーティーで爽やかな飲み口は、長い付き合いのお客さまからも「新しい味わいだね」と好評。今では蔵の看板商品になっています。
春夏秋冬、季節ごとに4つの味が楽しめるのも『卯酒』の面白いところ。秋の『卯酒 月見うさぎ』は、まろやかな熟成感がポイントです。
「温度による味の変化を感じられると思います。しっかり冷やしてもいいですし、そこから常温に戻ったくらいもおすすめです。食事を楽しみながら、ゆるゆると飲んでいただけたら」
ラベルのうさぎを愛でながら、秋の夜長にじっくり味わってください。
賑わいのあるまちであってほしい
台風19号による被害を受け、大天狗酒造は蔵修復のためにクラウドファンディングに挑戦しました。改修した蔵には、コミュニティスペースを併設。コロナ禍でまだあまり活用できていませんが、地域の人たちがふらっと気軽に立ち寄ることのできるハブのような場所にしたいと設計しました。また、「もとみや駅前を賑わせ隊」というプロジェクトを立ち上げ、まち歩きマップも制作しています。
「ずっとお祭りで賑わっている本宮を見てきたので、この賑わいがなくなるのは嫌なんです。お祭りもそうですが、私、人と集まるのがすごく好きなんですよ。この先もずっと、本宮が賑わっていてほしいですね」
大天狗酒造は、JR本宮駅から徒歩1分。この立地を生かし、目指すは本宮の情報発信基地です。酒造りだけでなく、まちづくりにも情熱を注ぐ小針さん。本宮を訪れた時には、ぜひ大天狗酒造に足を運んでみてください。