杜氏・マネージャー
小針 沙織(こばり さおり)さん
本宮市出身。大学卒業後、福島県内の大手スポーツクラブに就職。
結婚を機に退職し、2015年に大天狗酒造へ。
営業やネットショップ運営に加え、2018年からは杜氏として酒造りを行っている。
福島県の中央に位置する本宮市。
大天狗酒造は、ここ本宮市唯一の酒蔵として愛されてきました。
生産量のほぼ九割は本宮市内で消費されています。
特にお酒がよく飲まれるのが、毎年十月の秋祭りの時期です。
「酒蔵に関わるとは思ってもいなかった」という小針さんですが、
幼い頃から祭りで大天狗の酒が皆に飲まれるところを見てきました。
そして、「このお酒をなくすわけにはいかない」と酒造りの道へ進んだのです。
三年連続の中止、小規模な開催を経て、
二〇二三年、ようやく完全な形の祭りが本宮に戻ってきました。
小針さんの、酒へ、祭りへ、そして町への想いを聞いてください。
金木犀の香りは祭りの香り
毎年10月下旬、3日間にわたって行われる『もとみや秋祭り(安達太良神社秋季例大祭)』。
多くの提灯を下げた太鼓台が市内を練り歩き、男衆の裸御輿や、
女性だけの真結女御輿が祭りを盛り上げます。
「祭りの非日常感が好きです。太鼓の音が鳴り響く中、普段とはちがう道を歩いて……。
そして、お酒がみんなの絆を深めているんです」
目を輝かせて話す小針さん。
小学生の頃から祭りに参加しており、祭りを中心に1年が回っているといいます。
「『そろそろだな』という祭りの空気感があるんですよね。
金木犀の香りがすると、秋の訪れを感じますよね。
私にとっては、金木犀が香るということは、秋――祭りの季節なんです」
それほど楽しみにしている秋祭りですが、2019年から3年間は、台風による浸水被害とコロナ禍の影響で中止に。
2022年にようやく復活しましたが、お酒を解禁するには至らず。
そして今年、いよいよ完全な形で祭りを開催することができました。お話を伺ったのは祭りの前。
「酒造りと同じで、祭りも始まる前が一番ワクワクするんです」
と語ってくださいました。
目の前のことを一生懸命
2019年秋、台風19号によって、蔵は大きなダメージを受けました。
さあ酒造りだ……という時期に、蔵が浸水。
さまざまな機械が被害を受け、酒米は流され、蔵の存続が危ぶまれる状況でした。
クラウドファンディングで修繕費用を募り、ようやく新たな蔵が出来上がると、コロナウイルスが猛威を奮っていました。
大変なことばかり続いたように思われますが、小針さんは苦労をまったく感じさせません。
「目の前のことに一生懸命になっているだけなんですけどね。
大変なことは記憶に残っていなくて。ここ数年で一番緊張したことは……、
東京2020オリンピックで開会式のプラカードベアラーを務めたんですが、その前のPCR検査ですね(笑)」
クラウドファンディングを機に新設したコミュニティスペースでは、
ワークショップやマルシェなどさまざまなイベントが開かれ、地元の方でにぎわっています。
いつも前向きで朗らかな小針さんの人柄あってこそでしょう。
卯年を締めくくる一本
『卯酒』は、小針さんが蔵に入って初めて一から造り上げた銘柄です。
自分が好きなタイプの味を追求し、卯年生まれだから『卯酒』――。
まさに小針さんにしか造れない銘柄です。
春夏秋冬、季節ごとに4つの味が楽しめるのも面白いところ。
味だけでなく、ラベルにもぜひご注目を。
伏流水を使っている安達太良山と、本宮市の木である「まゆみの木」が描かれているほか、
夕暮れ・夜など、季節ごとに異なる時間帯でデザインされています。
2023年もいよいよ暮れていきます。
あなたにとって、どんな1年でしたか?
『卯酒 雪うさぎ』を愛でながら、ぜひゆっくりと振り返ってみてください。