和醸良酒を体現する蔵 曙酒造《福島県会津坂下町》 - fukunomo(フクノモ) ~福島からあなたへ 美酒と美肴のマリアージュ~

和醸良酒を体現する蔵 曙酒造《福島県会津坂下町》

製造部 副主任
笠井(かさい) みのりさん

高校卒業後、18歳で曙酒造に入社。
酒造りをゼロから学んできた。
2024年、福島の県清酒アカデミーに入校し、酒造りの知識を深めている。

 

 

曙酒造の特徴のひとつが、バラエティに富んだラインナップです。
3つの代表銘柄はどれも個性的。

季節限定酒が多くさまざまな味わいが楽しめる『天明』。
「いくつになっても青春の心を忘れずに挑戦を続ける」という決意が込められた『一生青春』。

そして、お酒が苦手でも飲みやすい日本酒ベースのヨーグルトリキュール『snowdrop』です。
二〇二四年、曙酒造は創業一二〇周年を迎えます。

それだけを聞くとさぞやベテランの蔵人揃いなのだろう……と思いますが、実はそうではないんです。
蔵人の平均年齢は二〇代と、福島県内の酒蔵でもかなり低め。

入社して初めて日本酒に触れる人も少なくありません。
今回お話を伺った笠井みのりさんも、一八歳で入社して、お酒が飲めないうちから酒造りに関わってきました。

現在は二三歳という若さで、酒造りのナンバーツーを担っています。
蔵について、酒造りについて、お話を伺いました。

 

 

18歳で酒造りの世界へ

 

みのりさんと曙酒造との出会いは、高校3年生の時でした。
軽い気持ちで会社説明会に行ってみたところ、社長の鈴木孝市さんの話に衝撃を受けます。

「従業員は家族。彼らの子どもも働きたいと思ってくれるような会社にしたい」
「自分も、従業員もまだ若いから、みんなで一緒に成長していければ」――。

話を聞き終える頃には、「この人と一緒に仕事がしたい!」という気持ちになっていました。
みのりさん、弱冠18歳。

お酒を飲んだこともなければ、日本酒造りという仕事がどういうものなのかもまったく知りませんでした。
それでも「ここで働きたい」という気持ちが揺らぐことはなく、高校を卒業した春、蔵人の一員となります。

入社当初のことを伺うと、「もう、すべてが重かったですね」とみのりさん。
日本酒の原料である米袋は何十キロにも及び、運ぶことすらままなりません。

しかし、いつも親身になってくれる先輩方が支えでした。
持ち方を教えてくれるだけでなく、みのりさんに合った身体の使い方を一緒に考えてくれました。
おかげで今では、「普通に持てるようになっちゃいました」と笑えるまでに。

未成年で酒造りを始めたみのりさん、もちろん味見はできません。
頼りは香りだけ。「この香りなら、こんな味ですか?」と先輩たちの感想を聞いて、味をイメージしていました。

20歳を迎え、お酒を飲める年になりましたが、あまりアルコールに強くないこともあり、今でも味わいより香りを感じる方が好きなのだそうです。
「酵母ひとつ、米ひとつでこんなに香りが変わるのか……と、今でも毎回感動しています」

 

 

夏にぴったりの甘酸っぱさ

 

今月お送りした『天明 さらさら純米』は、今年大幅リニューアルをしました。
特徴は、酸味を持つ白麹を使っていること。

「搾りの最中、私の好みのツンとした香りがしてきました。
酸味が少し強めになるかなと思っていたのですが、出来上がってみるとちょうどいい甘酸っぱさでした。
去年のものよりアルコール度数を下げて、11度です。
私はお酒にあまり強くないので、飲みやすいという意味でも好きな一本です」

残暑がきびしい日でもさらりと飲むことができる、さっぱりとしたお酒です。

 

 

良い関係性が良い酒を生む

 

23歳にして、製造部の副主任を務めるみのりさん。
先輩方から教わったことを、今度は自分が教える立場になりました。

「私の中に答えがあることでも、それを言葉にして伝えるのは本当に難しいです。
今年から日本酒アカデミーに通っていますし、もっと知識をつけて、後輩たちに自信を持って伝えられるようにならなくてはと思っています」

そんなみのりさんを、先輩方は温かい眼差しで見守ります。
取材中も、“兄貴分”だという方が何を言うでもなくにこにことみのりさんの言葉に耳を傾けていました。

先輩方はもちろん、社長である孝市さんとも気兼ねなく話すことのできる風通しの良い環境を、
「本当に家族みたいな関係性」だとみのりさん。

それは長い時間をかけて“和醸良酒”を追求してきた孝市さんの功績なのでしょう。
歴史ある蔵で働く若者たち。

これからが楽しみな、古くて新しい酒蔵です。