・代表 佐藤 修子(さとう しゅうこ)さん
14代目・佐藤彦十郎さんの義妹。先代の急逝につき、2020年に代表を引き継いだ。
・佐藤 酵(さとうこう)さん
14代目の一人娘。高校卒業後、19歳で佐藤酒造店に入社。
酒造りをはじめ、広報や事務など、幅広い仕事に携わっている。
製造に貯蔵に、ある程度の広さが必要となる酒蔵は、郊外に位置していることが多いものです。
その点、佐藤酒造店は驚くほど街中にあります。
新幹線の通るJR郡山駅から歩いて十五分ほど。
住宅地の中に、「藤乃井」と書かれた塀が現れます。
現在の代表で十五代目となる佐藤酒造店の創業は、一七一〇年。
当時、蔵の裏手には井戸があり、敷地内には藤の花が咲き誇っていたといいます。
その光景に魅了された当時の二本松藩主が、「藤乃井」という銘を授けました。
そうして誕生した「藤乃井」ブランドは、代表銘柄の一つです。
佐藤酒造店を支える二人の女性に、お話を伺いました。
長年の取り組みが悲願の金賞に
現在の蔵は、100年ほど前に建てられたのではないかといわれています。
歴史ある建物を大切にしながらも、より良い酒を求めて少しずつ改良を重ねてきました。
特筆すべきは、2015年に設備を一新したことです。
蒸し釜・製麹室・ヤブタ・冷蔵庫などをすべて買い替え、内装にも手を入れました。
かなり思い切った投資です。
新たな設備で出来上がった大吟醸を飲んだ酵さんは、
「うちの蔵でこんなにきれいなお酒が造れるなんて……」と感動したといいます。
同じ造り方をしていても、設備によって味は大きく変わるのです。
また、同時期に腕ききの南部杜氏・高橋さんをスカウト。
設備と人のどちらも追求することで、コツコツ、しかし着実に酒質を上げてきました。
ついにそれが花開いたのが、昨年のこと。
2023年の全国新酒鑑評会で、念願だった金賞を受賞したのです。
地元・郡山の酒を造りたい
今月お送りした『HOEI(ほうえい)』は、創業が宝永時代だったことに由来しています。
酵さんに説明していただきました。
「地元のお酒を造りたいというコンセプトから生まれました。
郡山産の美山錦を100%使用しています。
美山錦は、口に含むと甘さがあって、飲みやすく仕上がったと思います」
これまでの吟醸酒は兵庫県産の山田錦を使っていましたが、福島県の米を使った吟醸造りは長年の目標でした。
「地元への想いが一番ですが、価格も理由のひとつです。
山田錦は全国的に人気なので、どうしても価格が高くなってしまいます。
もっと手頃な価格で、たくさんの人に手に取ってもらいたいーー
という気持ちもあって、美山錦での吟醸造りを選びました」
細く長く、いいお酒を
修子さんに今後の目標を伺うと、「細く長く続けていきたいですね」とのこと。
「大きな蔵ではありませんし、たくさん造れるわけでもありません。
それでも、昔からたくさんのお客様に支えられてここまできました。
この蔵のお酒を未来へ繋いでいくことが私たちの役目だと思っています」
酵さんは、最近積極的にイベントに参加しています。
「うちの蔵は、PRが本当に苦手で……。
これまであまり発信に力を入れてこなかったのですが、いいお酒を造ったらみなさんに知ってもらいたいですから」
実は酒販店として小売業も営んでいる佐藤酒造店。
かなり大きな繁華街である郡山市の飲食店へ酒類の配達を行い、日々支えているのです。
忙しい毎日を送るお二人にリフレッシュ法を聞いてみると、「アニマルです」と声を揃えます。
家には、猫が3匹、犬が1匹。
おいしいお酒は、人間だけではなく、アニマルたちのおかげでもあるのかもしれません。