
・代表取締役 鈴木大介(すずき だいすけ)さん
大学卒業後、奈良県の酒蔵での修行を経て、実
家である鈴木酒造店に入社。震災後、廃業予定
だった山形の酒蔵を買い取って酒造りを再開。浪
江町でも酒造りを再開した現在は、2つの酒蔵を
行き来している。
海を間近に望む場所に創業した鈴木酒造店のルーツは、
酒蔵ではなく廻船問屋にありました。
海産物だけでなく米を取り扱う機会も多く、取引で余った米を生かして酒造りを始めたのが原点です。
港町に暮らす代々の蔵人たちは皆、大の釣り好き。
余った酒粕を地元の漁師に渡し、代わりに魚をもらう……
というやりとりも珍しくありませんでした。酒だけでなく、魚にもうるさいのが鈴木酒造店なのです。
東日本大震災とそれに伴う原発事故によって、江戸時代から続けてきた浪江町での酒造りを中断せざるを得なかった鈴木酒造店。
2021年、ようやく故郷・浪江町での醸造を再開することができました。
港町で育まれてきた唯一無二の酒造りについて、代表を務める鈴木大介さんにお話を伺いました。
偶然か、運命か
東日本大震災で蔵の全建屋が流出。さらに、原発事故によって浪江町全域に避難指示が出されました。
もう酒造りは無理か―
というところでしたが、偶然に助けられます。
震災の2ヶ月前、分析のために酵母を研究所に預けていたのです。その酵母を培養することで、これまでと変わらない鈴木酒造店の酒を再び造ることができました。
「あの酵母があったから、心が折れずにすんだんです」と鈴木さん。
震災の直後から福島県内の蔵を借りて酒を出荷すると、「お世話になった人に渡したい」「欲しい人がたくさんいるだろうから、一本だけください」などと、想像以上の反響があったといいます。
こんなにも待っていてくれる人がいるのなら―と、一日も早い再出発を誓いました。
魚があってこそ酒がある

2011年の秋に山形県の酒蔵を買い取り、立ち止まることなく酒造りを続けてきた鈴木さん。心の中にずっとあった「いつか浪江に帰る」という思いは、2021
年にようやく叶えられました。
以来、鈴木さんは週の半分を山形、半分を浪江町と、二つの蔵を行き来して酒造りを続けています。
鈴木酒造店には、「魚があってこそ、日本酒がある」という信念があります。震災前、浪江には100隻以上の漁船がありましたが、現在は30隻にまで減っています。酒蔵として地元の魚を応援することは使命でもありました。
「浪江では、地元の魚介類があって日本酒が成り立ってきました。どれだけうまい酒を造っても、魚がなければ存在意義がないんです
もっともっと浪江にこだわりたい

浪江での酒造りが再開されて3年あまり。
「これからは、より浪江にこだわっていきます」と鈴木さん。いち早く浪江町での米づくりを再開した米農家と提携し、食用のコシヒカリを使用。
自社での精米も再開し、米の質から醸造までを一貫して管理する体制を整えました。浪江の地で、浪江の米と水を使い、浪江の酒を造る。その誇りを、改めて実感する日々です。
そんな鈴木酒造店からの今月のお酒は『磐城壽 大漁祝 紺碧 純米吟醸 しぼりたて』です。この酒の特徴は、二次発酵による複雑な味わいにあります。食中酒にぴったりの一本です。
そして、鈴木酒造店の夢は、お酒を通じて町を盛り上げることです。鈴木酒造店の蔵があるのは、「道の駅なみえ」に隣接する建物。
そう、ここは日本でも珍しい〝お酒が飲める道の駅〞なのです。
「ただ飲むための場所ではなく、地元の食材を楽しみ、人が関わり合う場所にしたいんです」―。
浪江町で再び火を灯した鈴木酒造店。その酒は、浪江町の魂そのものです。